Secret Lover's Night 【完全版】
大人は笑って嘘をつく。
それを嫌と言うほど目にしてきただけに、千彩には目の前で言い争う二人の仲の良さたるものがいまいち理解出来ない。それに、自分にはそんな友達などできたことがない。
「ちぃのせいちゃうで?こいつがあほなことばっかするから…」
そう言って眉根を寄せる晴人の首元に巻き付き、イヤイヤと小さく首を振る。
ケンカしないで。
ちさが居てごめんなさい。
声に出さずにそう訴え、ぐすりと鼻を啜った。
「ほら、晴人。ちーちゃんが怖がってるやん」
「俺か!」
「もー。晴人は怒りんぼうさんやからなー。おいでー、マイエンジェル」
ちらりと覗き見、促されるままに千彩はその手を取る。そして、そのまま恵介の腕の中へと収まった。
それをどこか寂しげに見送った晴人が、つい今しがた二人が暴れ回って散らばった服を集め始める。
「ちぃはどんな服が好きや?」
拾い集めながら手早くコーディネートしていくあたり、晴人もさすがと言うべきか。フリフリと甘さを強調した恵介のコーディネートをベースに、自分好みのカジュアルさを付け加えていく。
L字型のソファを山型に見て、向かって右に恵介、左に晴人のコーディネートした服が並んだ。なおも纏わり付こうとする恵介を背に回し、千彩は暫し思案する。
そして、思った。どれも同じに見える…と。
「ちさわからん」
「遠慮せんでええんやで?」
「せやでー。着たいの言うてくれたら俺がプレゼントするからな」
「ちさ…これでいい」
そう言って着ているTシャツの裾を引っ張れば、あらあらーと恵介が肩を竦めた。
「遠慮しぃなんかなー?これなんかどう?可愛いで」
いかにも「男ウケ狙いました!」な甘いコーディネートに難色を示したのは、言わずもがな晴人だ。
「ちぃ、これに着替えておいで。恵介、下着」
どのコーディネートも不満だと思ったのか、晴人が手渡したのは至ってシンプルなもので。少し短めのジーンズスカートと、襟ぐりの広いざっくり編みのセーターにインナー。
並べていた中でも比較的控え目なそれに、千彩は小さく頷く。
そして、千彩にとって今最も必要だろう下着も忘れずに受け取り、ベッドルームへと移動した。
モゾモゾと着替えながら、ソファに並べられていた服を思い返す。
遠慮と言うよりも、自分にはよくわからない世界。お洒落など、今まで特にする必要はなかったのだから。
「あ…ピッタリ」
サイズがピッタリだったことに少し驚きつつも、渡された服に身を押し込む。そして、ベッドに脱ぎ捨てたパジャマ代わりにしていた服を丁寧に畳んで枕元に置き、改めてその部屋を見渡す。
「カメラマンって…お金持ち?」
広さは、さっきまで居たリビングよりも少し狭いだろうか。
膝ほどの高さの低めのベッドは、一人で眠るには大き過ぎるほど大きくて。壁際に置かれた机の上には、大きな薄型画面のパソコンと、何だかゴツゴツとしたアクセサリーが無造作に置いてある。
今まで自分がいた環境との大きな差に、千彩は何だか虚しくなった。
「ここに…居てもいいんかな、ほんまに」
恐る恐る尋ねた自分に、晴人は笑って頷いてくれた。
俺が守ったる。
晴人はそう言ってくれた。確かにそれは、涙が出るほど嬉しかったのだけれど。
もしかしたら…
またどっか売られるかも…
決して言葉には出せない不安が、波のように一気に押し寄せてくる。一度大きく頭を振り、唇をギュッと噛む。蹲り、膝を抱えた。
「ちぃ、着替えたらこっちおいでや?ご飯食べに行くで」
「ちーちゃーん。俺お腹ペコペコやわー」
その声に、勢い良く顔を上げる。溢れ出そうになった涙をゴシゴシと拭い、二人の待つリビングへと足早に駆けた。
このままずっと、
はるが傍に置いてくれますように。
千彩の願いはただ一つだった。
それを嫌と言うほど目にしてきただけに、千彩には目の前で言い争う二人の仲の良さたるものがいまいち理解出来ない。それに、自分にはそんな友達などできたことがない。
「ちぃのせいちゃうで?こいつがあほなことばっかするから…」
そう言って眉根を寄せる晴人の首元に巻き付き、イヤイヤと小さく首を振る。
ケンカしないで。
ちさが居てごめんなさい。
声に出さずにそう訴え、ぐすりと鼻を啜った。
「ほら、晴人。ちーちゃんが怖がってるやん」
「俺か!」
「もー。晴人は怒りんぼうさんやからなー。おいでー、マイエンジェル」
ちらりと覗き見、促されるままに千彩はその手を取る。そして、そのまま恵介の腕の中へと収まった。
それをどこか寂しげに見送った晴人が、つい今しがた二人が暴れ回って散らばった服を集め始める。
「ちぃはどんな服が好きや?」
拾い集めながら手早くコーディネートしていくあたり、晴人もさすがと言うべきか。フリフリと甘さを強調した恵介のコーディネートをベースに、自分好みのカジュアルさを付け加えていく。
L字型のソファを山型に見て、向かって右に恵介、左に晴人のコーディネートした服が並んだ。なおも纏わり付こうとする恵介を背に回し、千彩は暫し思案する。
そして、思った。どれも同じに見える…と。
「ちさわからん」
「遠慮せんでええんやで?」
「せやでー。着たいの言うてくれたら俺がプレゼントするからな」
「ちさ…これでいい」
そう言って着ているTシャツの裾を引っ張れば、あらあらーと恵介が肩を竦めた。
「遠慮しぃなんかなー?これなんかどう?可愛いで」
いかにも「男ウケ狙いました!」な甘いコーディネートに難色を示したのは、言わずもがな晴人だ。
「ちぃ、これに着替えておいで。恵介、下着」
どのコーディネートも不満だと思ったのか、晴人が手渡したのは至ってシンプルなもので。少し短めのジーンズスカートと、襟ぐりの広いざっくり編みのセーターにインナー。
並べていた中でも比較的控え目なそれに、千彩は小さく頷く。
そして、千彩にとって今最も必要だろう下着も忘れずに受け取り、ベッドルームへと移動した。
モゾモゾと着替えながら、ソファに並べられていた服を思い返す。
遠慮と言うよりも、自分にはよくわからない世界。お洒落など、今まで特にする必要はなかったのだから。
「あ…ピッタリ」
サイズがピッタリだったことに少し驚きつつも、渡された服に身を押し込む。そして、ベッドに脱ぎ捨てたパジャマ代わりにしていた服を丁寧に畳んで枕元に置き、改めてその部屋を見渡す。
「カメラマンって…お金持ち?」
広さは、さっきまで居たリビングよりも少し狭いだろうか。
膝ほどの高さの低めのベッドは、一人で眠るには大き過ぎるほど大きくて。壁際に置かれた机の上には、大きな薄型画面のパソコンと、何だかゴツゴツとしたアクセサリーが無造作に置いてある。
今まで自分がいた環境との大きな差に、千彩は何だか虚しくなった。
「ここに…居てもいいんかな、ほんまに」
恐る恐る尋ねた自分に、晴人は笑って頷いてくれた。
俺が守ったる。
晴人はそう言ってくれた。確かにそれは、涙が出るほど嬉しかったのだけれど。
もしかしたら…
またどっか売られるかも…
決して言葉には出せない不安が、波のように一気に押し寄せてくる。一度大きく頭を振り、唇をギュッと噛む。蹲り、膝を抱えた。
「ちぃ、着替えたらこっちおいでや?ご飯食べに行くで」
「ちーちゃーん。俺お腹ペコペコやわー」
その声に、勢い良く顔を上げる。溢れ出そうになった涙をゴシゴシと拭い、二人の待つリビングへと足早に駆けた。
このままずっと、
はるが傍に置いてくれますように。
千彩の願いはただ一つだった。