Secret Lover's Night 【完全版】
「ちさ、はると結婚するの?」
「あれ?せぇへんのか?」
「知らない。はるなんにも言ってないもん」
じとりと父に睨まれ、知らぬうちに渦中に引き込まれたことを知る。何だ何だ?と、手招きをする父の元へと足を進めた。
「何?」
「お前まだプロポーズしてへんのか?」
「はぁ?しとるわけあらへん」
「何でや」
「何でやって…まだ先や言うたやん」
勿論自分はそのつもりでいるけれど、千彩の心は変わって行くかもしれない。何せまだ18歳なのだ。変わらない方がおかしい。と、不安と期待を織り交ぜた複雑な思いでそう決めていたのだ。
「ええから首突っ込むなって」
「そんなわけにいくか」
「いかんわけあらへん」
「ちーちゃんは父さんにとっても娘なんやぞ」
「ほな親父は自分の娘を自分の息子に嫁にやるんかいな」
「そうやないやろ。お前の嫁になるから父さんの娘なんやないか」
「わけのわからんことを尤もらしい理由つけて言うなよ」
「わけのわからんこと言うてんのはお前やろ。この馬鹿息子!」
「何やねん!この馬鹿親父!」
また始まった…と、三人の大人が同時にため息を吐く。
実のところ、こんな言い合いは初めてではない。この数ヶ月の間、酒を汲み交わす二人は必ずと言って良いほどこの手の言い合いをしていた。もっとも、アルコールの入っていない状況で、口論を嫌う千彩の前で、というのは初めてだったけれど。
「ねー、ぷろぽーずって?」
ぬいぐるみを抱き締めたままの千彩が、二人の間に身を乗り出した。そこで、誰も止めようとしなかった親子の口論がパタリと止まる。
「馬鹿な息子でごめんな、ちーちゃん」
「パパ、はるはバカじゃないよ?おりこーさんやってけーちゃんが言ってたもん」
「恵介も大概馬鹿息子やからなぁ。どっちもどっちや」
「こら!千彩の前でそうゆうこと言うな!」
千彩の耳を両手で塞ぎ、晴人は父親を窘める。自分達の前ではいくら言おうが構わないけれど、恵介のことが大好きな千彩にそんな悪態は聞かせたくなかった。
「おおぉ、すまん、すまん」
「ほんま…馬鹿はどっちや。もうその話は終わりや。ええな?」
モゾモゾと嫌がる千彩を解放し、早々に席に着く。お土産に買って来たプリンに目を輝かせる千彩の髪を一撫ぜし、晴人はふくれっ面でコーヒーカップを傾けた。そんな様子に、母がふふっと笑い声を洩らす。
「何笑うてんの、母さん」
「いやぁ、晴人はほんまにちーちゃんのことが好きなんやなぁと思って」
「はぁ?」
「ちゃんとちーちゃんのことわかってるやん?くまが無かったらあかんとか、プリンが大好きやとか」
「そんなん当たり前やろ」
「でも、晴人よりお母さんとお父さんの方がちーちゃんと一緒に居る時間長いよ?」
自分が千彩と一緒に暮らした時間は一週間。それ以上の期間、それ以上の密度で千彩はこの家で暮らしている。
三人の子供が全てアラサー世代になった両親からすれば、子育てをもう一度した気分かもしれない。そう思うと、じわりと胸に切なさを感じた。
「ありがとうな?千彩の面倒みてくれて」
ボソリと呟くように言葉を押し出した晴人の頭を、母が撫でる。それを見て、プリンを頬張っていた千彩が驚きの声を上げた。
「はるがイイコイイコされてる!」
「晴人は良い子よー。だからちーちゃん、いつまでも晴人のこと好きでいてね?」
「うん!ちさはずっとはるのこと大好き!」
ねー?と同意を求められ、愛しさが込み上げる。最初は少し心配したけれど、千彩はもうすっかり家族の一員だった。
「あれ?せぇへんのか?」
「知らない。はるなんにも言ってないもん」
じとりと父に睨まれ、知らぬうちに渦中に引き込まれたことを知る。何だ何だ?と、手招きをする父の元へと足を進めた。
「何?」
「お前まだプロポーズしてへんのか?」
「はぁ?しとるわけあらへん」
「何でや」
「何でやって…まだ先や言うたやん」
勿論自分はそのつもりでいるけれど、千彩の心は変わって行くかもしれない。何せまだ18歳なのだ。変わらない方がおかしい。と、不安と期待を織り交ぜた複雑な思いでそう決めていたのだ。
「ええから首突っ込むなって」
「そんなわけにいくか」
「いかんわけあらへん」
「ちーちゃんは父さんにとっても娘なんやぞ」
「ほな親父は自分の娘を自分の息子に嫁にやるんかいな」
「そうやないやろ。お前の嫁になるから父さんの娘なんやないか」
「わけのわからんことを尤もらしい理由つけて言うなよ」
「わけのわからんこと言うてんのはお前やろ。この馬鹿息子!」
「何やねん!この馬鹿親父!」
また始まった…と、三人の大人が同時にため息を吐く。
実のところ、こんな言い合いは初めてではない。この数ヶ月の間、酒を汲み交わす二人は必ずと言って良いほどこの手の言い合いをしていた。もっとも、アルコールの入っていない状況で、口論を嫌う千彩の前で、というのは初めてだったけれど。
「ねー、ぷろぽーずって?」
ぬいぐるみを抱き締めたままの千彩が、二人の間に身を乗り出した。そこで、誰も止めようとしなかった親子の口論がパタリと止まる。
「馬鹿な息子でごめんな、ちーちゃん」
「パパ、はるはバカじゃないよ?おりこーさんやってけーちゃんが言ってたもん」
「恵介も大概馬鹿息子やからなぁ。どっちもどっちや」
「こら!千彩の前でそうゆうこと言うな!」
千彩の耳を両手で塞ぎ、晴人は父親を窘める。自分達の前ではいくら言おうが構わないけれど、恵介のことが大好きな千彩にそんな悪態は聞かせたくなかった。
「おおぉ、すまん、すまん」
「ほんま…馬鹿はどっちや。もうその話は終わりや。ええな?」
モゾモゾと嫌がる千彩を解放し、早々に席に着く。お土産に買って来たプリンに目を輝かせる千彩の髪を一撫ぜし、晴人はふくれっ面でコーヒーカップを傾けた。そんな様子に、母がふふっと笑い声を洩らす。
「何笑うてんの、母さん」
「いやぁ、晴人はほんまにちーちゃんのことが好きなんやなぁと思って」
「はぁ?」
「ちゃんとちーちゃんのことわかってるやん?くまが無かったらあかんとか、プリンが大好きやとか」
「そんなん当たり前やろ」
「でも、晴人よりお母さんとお父さんの方がちーちゃんと一緒に居る時間長いよ?」
自分が千彩と一緒に暮らした時間は一週間。それ以上の期間、それ以上の密度で千彩はこの家で暮らしている。
三人の子供が全てアラサー世代になった両親からすれば、子育てをもう一度した気分かもしれない。そう思うと、じわりと胸に切なさを感じた。
「ありがとうな?千彩の面倒みてくれて」
ボソリと呟くように言葉を押し出した晴人の頭を、母が撫でる。それを見て、プリンを頬張っていた千彩が驚きの声を上げた。
「はるがイイコイイコされてる!」
「晴人は良い子よー。だからちーちゃん、いつまでも晴人のこと好きでいてね?」
「うん!ちさはずっとはるのこと大好き!」
ねー?と同意を求められ、愛しさが込み上げる。最初は少し心配したけれど、千彩はもうすっかり家族の一員だった。