Secret Lover's Night 【完全版】
幸せの約束
うたた寝をしてまだとろんと眠そうな目をしている千彩の手を引き、品川駅へ降り立つ。そして、早々に新居へとタクシーを走らせた。
新しい町並みにワクワクと目を輝かせる千彩は、もう数十分前までの眠さを完全に忘れているようで。運転手さんに「ありがとう!」とお礼を言う千彩の手を引いてタクシーを降りると、今か今かと待ち構えていた友人二人に出迎えられた。
「行っておいで」
「うん!」
鞄を受け取ってやると、千彩が嬉しそうに駆け出す。勢い良く抱き着いたのは、腕を開いて「マイエンジェル!」と待ち構える恵介だった。
「お疲れ様、王子」
「おう。だいぶ待った?中で待ってた良かったのに」
「いや、初めは中に居たんだけどね。どうもアレが落ち着きが無くてさ」
呆れられてるぞ。と伝えたいのだけれど、当の本人は千彩を抱きしめたまま号泣していて。諦めて苦笑いをすると、メーシーがひょいと空を見上げた。
「降ってきた…」
「ん?」
同じように空を見上げると、チラチラと舞う白い物が見える。寒いと思ったら雪か。そう呟いたメーシーが、ちょこちょこと寄って来た千彩の頭をゆるりと撫でた。
「おかえり、姫」
「めーしーただいま!」
「髪随分伸びたね。また切ろうか?」
その言葉に、千彩はチラリと晴人を見上げる。それにコクリと頷くと、千彩も大きく頷いて「うん!お願いします!」と元気な声を響かせた。
「ねー、めーしー」
「ん?」
「マリちゃんは?」
「マリちゃん?マリちゃんはまだお仕事だよ」
「今日マリちゃんも来る?」
「さぁ、どうだろう」
「ちーちゃん、何でメーシーに訊くん?」
エントランスを歩きながら、千彩が不意にメーシーに問い掛ける。ボタンを押してエレベーターを待っているメーシーは、どこか居心地が悪そうにしていた。
「だって、マリちゃんはめーしーのカノジョのだよ?だからめーしーに訊いたらわかるでしょ?」
あちゃー。とはにかむメーシーの後を追い。晴人と恵介は慌ててエレベーターへと乗り込む。勿論メーシーを待つのは、ピタリと体を寄せた二人からの質問攻めだ。
「ちょっ!いつの間にマリちゃんと!」
「え?何のことだろ?」
「佐野さん、佐野さん。白状しといた方が身のためやと思うけど?」
「いやー。どうしちゃったんだろね、姫ったら」
「ちさ嘘吐いてないよ?だってマリちゃんがそう言ってたもん」
満面の笑みでそう断言されてしまえばもう観念するしかないのだけれど、どうにか誤魔化したいメーシーは、ふぅっと息を吐いて色んな言葉を頭に巡らせる。
けれど、そのどれもが上手い言い訳には構成されなかった。
「で?」
「んー。まぁ…そうゆうことになるかな」
「いつから?」
「それは秘密」
綺麗な長い指を唇の前に立て、シッと言ってニヤリと笑うメーシー。これは深く追求しないに限る。と、裏表の激しさを知っている二人は目を見合わせて頷いた。
そんな男同士のやり取りを不思議そうに首を傾げて見つめながら、千彩はギュッと晴人の手を引く。
「ちさ悪いこと言った?」
「いいや。悪いのは黙ってたメーシーや。気にしぃな。さっ、ここが新しい家やで」
玄関扉の前でバスガイドよろしく片手を上げると、千彩の目がキラキラと輝く。扉を開いて中へと促すと、ブーツを脱いでバッと駆け出した。
「すごーい!明るい!」
確かに、以前住んでいた部屋より格段に明るい部屋なのだけれど…
「第一声がそれか」
ボソリと漏らしたくもなると言うものだ。
「広いねー。あっ!こっちにパソコンがある!ベッドはー?」
「ベッドはあっちの部屋やわ。そこに服やら何やら置いてるから、これ置いておいで」
「はーい!」
まるでスキップでもし始めそうな千彩に鞄を渡し、晴人は取り敢えずキッチンへ入る。コーヒーメーカーのスイッチを入れ、以前とはガラリと変わった風景に一人うんうんと頷いた。
「はるー、いっぱいお洋服あったよ!」
「おぉ。全部恵介とマリからのプレゼントやわ」
「けーちゃんありがとう!」
満面の笑みでお礼を言う千彩に「どういたしましてー」と軽く答えると、恵介はカップを置いて徐にソファに置いてあった紙袋を千彩に手渡した。
「ちーちゃんちょっとこれ着てみてくれへん?」
「お前また服か!もうええ加減にせぇ言うたやろ!」
思わず声を荒げた晴人を、「まぁまぁ」とメーシーが窘める。
「着替えたら呼んでね?俺がセットとメイクしたげるから」
「はーい!」
大事そうに紙袋を抱えた千彩が、再びベッドルームへと戻って行く。そんなに大掛かりなことをするような服なのか?と、晴人は首を傾げた。
「何なん?あれ」
「ええから、ええから」
「きっとビックリするよ。何てったってケイ坊の力作だからね」
「力作?お前が作ったん?」
「まぁ…一応」
そう言えば、何度か何かを作っているような素振りを事務所で目撃した。仕事で使う物だろうと思っていたのだけれど、実はそうではなかったらしい。その事実に、またため息が出る。
「ちゃんと仕事してんか?お前は」
「失礼な!ちゃんとしとるわ」
「しっかりしてくれよ?頼むから」
晴人にとって恵介は、いつまでも手がかかる弟のような存在で。お互い売れ始めてからは仕事の都合ですれ違うことも多かったのだけれど、千彩のおかげで再び学生時代のように一緒に居る時間が増えた。
あの頃のようにもう無茶はしなくなったけれど、やはりいつまでも恵介は恵介のまま。少しは成長しろよ…とも思いもするけれど、それが好きだったりもする。
「めーしー!」
「はいはーい。じゃ、楽しみしてて」
「おぉ」
にっこりといつものように笑うメーシーが、何だか胡散臭い。何かしでかしはしないだろうか…と、少しの不安を胸に、晴人はコーヒーカップを傾けた。
新しい町並みにワクワクと目を輝かせる千彩は、もう数十分前までの眠さを完全に忘れているようで。運転手さんに「ありがとう!」とお礼を言う千彩の手を引いてタクシーを降りると、今か今かと待ち構えていた友人二人に出迎えられた。
「行っておいで」
「うん!」
鞄を受け取ってやると、千彩が嬉しそうに駆け出す。勢い良く抱き着いたのは、腕を開いて「マイエンジェル!」と待ち構える恵介だった。
「お疲れ様、王子」
「おう。だいぶ待った?中で待ってた良かったのに」
「いや、初めは中に居たんだけどね。どうもアレが落ち着きが無くてさ」
呆れられてるぞ。と伝えたいのだけれど、当の本人は千彩を抱きしめたまま号泣していて。諦めて苦笑いをすると、メーシーがひょいと空を見上げた。
「降ってきた…」
「ん?」
同じように空を見上げると、チラチラと舞う白い物が見える。寒いと思ったら雪か。そう呟いたメーシーが、ちょこちょこと寄って来た千彩の頭をゆるりと撫でた。
「おかえり、姫」
「めーしーただいま!」
「髪随分伸びたね。また切ろうか?」
その言葉に、千彩はチラリと晴人を見上げる。それにコクリと頷くと、千彩も大きく頷いて「うん!お願いします!」と元気な声を響かせた。
「ねー、めーしー」
「ん?」
「マリちゃんは?」
「マリちゃん?マリちゃんはまだお仕事だよ」
「今日マリちゃんも来る?」
「さぁ、どうだろう」
「ちーちゃん、何でメーシーに訊くん?」
エントランスを歩きながら、千彩が不意にメーシーに問い掛ける。ボタンを押してエレベーターを待っているメーシーは、どこか居心地が悪そうにしていた。
「だって、マリちゃんはめーしーのカノジョのだよ?だからめーしーに訊いたらわかるでしょ?」
あちゃー。とはにかむメーシーの後を追い。晴人と恵介は慌ててエレベーターへと乗り込む。勿論メーシーを待つのは、ピタリと体を寄せた二人からの質問攻めだ。
「ちょっ!いつの間にマリちゃんと!」
「え?何のことだろ?」
「佐野さん、佐野さん。白状しといた方が身のためやと思うけど?」
「いやー。どうしちゃったんだろね、姫ったら」
「ちさ嘘吐いてないよ?だってマリちゃんがそう言ってたもん」
満面の笑みでそう断言されてしまえばもう観念するしかないのだけれど、どうにか誤魔化したいメーシーは、ふぅっと息を吐いて色んな言葉を頭に巡らせる。
けれど、そのどれもが上手い言い訳には構成されなかった。
「で?」
「んー。まぁ…そうゆうことになるかな」
「いつから?」
「それは秘密」
綺麗な長い指を唇の前に立て、シッと言ってニヤリと笑うメーシー。これは深く追求しないに限る。と、裏表の激しさを知っている二人は目を見合わせて頷いた。
そんな男同士のやり取りを不思議そうに首を傾げて見つめながら、千彩はギュッと晴人の手を引く。
「ちさ悪いこと言った?」
「いいや。悪いのは黙ってたメーシーや。気にしぃな。さっ、ここが新しい家やで」
玄関扉の前でバスガイドよろしく片手を上げると、千彩の目がキラキラと輝く。扉を開いて中へと促すと、ブーツを脱いでバッと駆け出した。
「すごーい!明るい!」
確かに、以前住んでいた部屋より格段に明るい部屋なのだけれど…
「第一声がそれか」
ボソリと漏らしたくもなると言うものだ。
「広いねー。あっ!こっちにパソコンがある!ベッドはー?」
「ベッドはあっちの部屋やわ。そこに服やら何やら置いてるから、これ置いておいで」
「はーい!」
まるでスキップでもし始めそうな千彩に鞄を渡し、晴人は取り敢えずキッチンへ入る。コーヒーメーカーのスイッチを入れ、以前とはガラリと変わった風景に一人うんうんと頷いた。
「はるー、いっぱいお洋服あったよ!」
「おぉ。全部恵介とマリからのプレゼントやわ」
「けーちゃんありがとう!」
満面の笑みでお礼を言う千彩に「どういたしましてー」と軽く答えると、恵介はカップを置いて徐にソファに置いてあった紙袋を千彩に手渡した。
「ちーちゃんちょっとこれ着てみてくれへん?」
「お前また服か!もうええ加減にせぇ言うたやろ!」
思わず声を荒げた晴人を、「まぁまぁ」とメーシーが窘める。
「着替えたら呼んでね?俺がセットとメイクしたげるから」
「はーい!」
大事そうに紙袋を抱えた千彩が、再びベッドルームへと戻って行く。そんなに大掛かりなことをするような服なのか?と、晴人は首を傾げた。
「何なん?あれ」
「ええから、ええから」
「きっとビックリするよ。何てったってケイ坊の力作だからね」
「力作?お前が作ったん?」
「まぁ…一応」
そう言えば、何度か何かを作っているような素振りを事務所で目撃した。仕事で使う物だろうと思っていたのだけれど、実はそうではなかったらしい。その事実に、またため息が出る。
「ちゃんと仕事してんか?お前は」
「失礼な!ちゃんとしとるわ」
「しっかりしてくれよ?頼むから」
晴人にとって恵介は、いつまでも手がかかる弟のような存在で。お互い売れ始めてからは仕事の都合ですれ違うことも多かったのだけれど、千彩のおかげで再び学生時代のように一緒に居る時間が増えた。
あの頃のようにもう無茶はしなくなったけれど、やはりいつまでも恵介は恵介のまま。少しは成長しろよ…とも思いもするけれど、それが好きだったりもする。
「めーしー!」
「はいはーい。じゃ、楽しみしてて」
「おぉ」
にっこりといつものように笑うメーシーが、何だか胡散臭い。何かしでかしはしないだろうか…と、少しの不安を胸に、晴人はコーヒーカップを傾けた。