黒猫のアリア
闇夜に紛れるは、




仮想16世末――――

イギリス、ロンドン。
石造りの家が両脇に聳え立つ、とある通り。ハンチング帽を被った青年が、小脇に抱えた新聞紙の束から一枚ずつ引き抜いて行き交う人々に渡している。

青年から新聞を受け取った人は口々に小さな悲鳴を上げた。

「まあ! また"黒猫"が出たの?」
「今回はコインか……。あいつはまったく性質が悪いな」
「最近多くありません? 先週はモルペウスが港町の美術館に入ったと言いますし……」
「物騒な世の中になったものだ」

彼らは顔を顰めて嫌悪の表情を浮かべる。

そんな彼らを、すぐ隣の家の屋根裏部屋の窓から見下ろす一人の女性の姿があった。
感情の読み取れない彼女の顔は無機質で、ぞっとするような冷たさがあった。陶器のような白い肌にウェーブがかったブラウンの長い髪。反射の仕方次第で金色にも見えそうな色素の薄い瞳が、往来の人々を見渡す。彼女は一瞬目を細めてから髪を靡かせて窓から離れた。

壁に掛けてあったメイド用の服に着替えて鏡の前に立ち、身だしなみを整えた自分を見つめて彼女はぽつりと呟いた。


「……忘れるな、黒猫。あんたの罪を」



















        黒猫のアリア






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