黒猫のアリア
「それにしても、こんな時間にどうかしたんですか? この子は?」
「ああ、この子、なかなか寝付けなかったみたいで……。落ち着くように少し周りを散歩していたのよ」
そう言ってシスターは腕の中の子供の髪をやわらかく梳く。その微笑みは私が居たころと何一つ変わっていなくて、私からも思わず笑みがこぼれた。
「アンこそこんな時間にどうしたの? 院に何か用だった?」
「いえ、その子と同じようなものです。ちょっと眠れなくて」
しれっと、嘘を吐く。
「そう……。中でホットチョコレートでも淹れましょうか?」
「ううん、大丈夫。もう帰るところだから。ありがとう」
シスターは変わらない。このひとは、私にとって友人であり姉であり母だった。孤児院の中で一番好きなひとだった。優しい眼差しで見つめられるだけで安心する。頭を撫でてもらいながら眠るととても幸せな夢が見れる。母親が居たらこんな感じなのだろうか、と幼いころはよく想像していた。
「気を付けて帰るのよ、アン。またいつでもいらっしゃい」
「ありがとうございますシスター。また、いずれ」
浅くお辞儀をしてシスターと別れる。
(どうかあなたに、主の恵みが訪れますように)