黒猫のアリア
「ちょっと、何ついて来てんのよ!」
こんなこと今まで一度だってなかった。お互いの仕事には口を出さない手を出さない。それが私たちの暗黙のルールだった。
咎めるような私の口調も気にせず、モルペウスはいつものようににっと笑う。
「手伝おうか?」
思わず眉が寄る。
どうしたんだろう、モルペウスがこんなことを言うなんて。
「バカ言わないで。迷惑よ」
ぴしゃり。モルペウスの方を向きもせずに答える。モルペウスはやっぱりという顔で苦笑した。
「じゃあ仕事が終わったらベルマーニの肉屋の上に来て。待ってるから」
怪訝な顔でモルペウスを横目で見ると、彼はしれっと答えた。
「話したいことあるんだ」
それだけ言って、彼はそのまま私の横を通り過ぎて夜のロンドンの闇に紛れた。
いつもと違ったモルペウスの様子を不思議に思いながらも頭を振ってその考えを追い出す。これから仕事だというのに、モルペウスのことを考えている余裕はない。
風を切って走る。ちらつくモルペウスの顔を気にしないようにしながら、今夜盗むクイーン・アイに思いを馳せた。