黒猫のアリア



「……どうして私だって判ったのよ」

口を尖らせて問う。不機嫌な声を気にもせずにモルペウスが答えた。


「あそこに居たお客さんの中で一番可愛かったからね」

さらりととんでもないことを言ってのけたモルペウスを、私は未確認生命体を見るような目つきで見つめた。
しかも今の答えは全然答えになっていない。


「……あんた、あたま大丈夫?」

「なにー? ひどいなあ、俺が冗談言うと思ってるの?」

青い瞳が笑う。もういつものモルペウスだ。
私はそんなモルペウスの様子に安堵を感じながらも、大げさにため息を吐いた。


「もういいわ。コインなんて投げちゃった私が悪いのよ」

「そんなこと言わないでよ。俺すっごい嬉しかったんだから」

モルペウスは顔の前に一ペンス硬貨をちらつかせて笑う。横目で見たその嬉しそうな顔に、気持ちが弛んだ。
少し息を深めに吸って、口を開く。


「……私が、メッセージカードに一ペンスを添えるのはね、まあ、大した理由じゃないんだけどさ」

「聞きたい」

短く意思を伝えるモルペウスの顔は真剣で、私は少し気圧された。軽い深呼吸をしてから言葉をつなぐ。


「戒めのつもりなの。わずかなお金でも、粗末にしたら痛い目をみるわよっていう、そういう」

言葉にするとやけに陳腐な理由に思えて、私は思わず顔を伏せた。先ほど聞いたモルペウスの話に比べると、ひねりも何もないつまらないこだわりだ。




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