黒猫のアリア
モルペウスは何度か小さな頷きを繰り返し、最後に「なるほど」と呟いた。
「いいアイディアだね。格好良い」
気を遣っているのかなんなのかよくわからない反応にとりあえず曖昧な笑みで返しておく。
私の警戒心が弛んでいることがわかったのか、モルペウスは次にこんな質問をした。
「稼いだお金はどうしてるの?」
普通怪盗にそれ訊くかなあ。
何の疑いも含んでいない視線に、私の胸の中の罪悪感が膨れ上がった。
「……孤児院に寄付してる、けど、」
「けど?」
寄付してるというところにまったく驚かないあたり、こいつは私を過信し過ぎていると思った。
「けど、……自分で使ってもいるわよ」
私はモルペウスとは違う。稼いだお金の一割は常に自分の手元に置いて、生活の足しにしているのだ。
私は、弱い人間なのだ。モルペウスみたいに器の大きな人間じゃない。
「へえ、そっか」
驚きもせずにモルペウスが相槌を打った。そのまま何も言わないモルペウスに、私は堪らず声をかける。
「軽蔑しないの?」
「へ? 何が?」
「盗んだものを売ったお金を、私は自分のものにしてるのよ?」