黒猫のアリア
体ごとモルペウスのほうに向いて話す私が余程情けない顔をしていたのだろう。モルペウスが可笑しそうに噴き出した。
「軽蔑なんてするわけないでしょ。俺も同じことしてんだから」
「だってモルは全額寄付……」
「なんで知ってんの。っていうかそれだって盗んだものを売ったお金。コインちゃんと変わらないよ」
そのとき、頭にふわりとした感触を感じた。まるで安心させるように、モルペウスが私の頭を撫でたのだ。初めて感じるモルペウスの体温。私は驚いて表情を凍らせた。
無意識の行動だったのか、モルペウスは「あ、ごめん」と言いながらはっとした顔で手を除けた。
「それで、コインちゃんはどうして孤児院に寄付なんてしてるの?」
声の調子を戻してモルペウスが訊いた。
「……、わかっててほしいから」
「なにを?」
「私が居ることを。あの子たちを思って生きている人間が居るってことを」
モルペウスが沈黙で私の言葉を促す。
「たとえ汚れた両手からだとしても、私はあの子たちに贈りたかった」
あのころの私が一番欲しかったものを。
お金という手段しか思いつかない私がどんなに愚かか、それは解っていた。
それでも。
「せめてもの、愛を」
ロンドンの街が闇に包まれている。あの子たちも今頃は幸せな夢をみているだろうか。彼らが安らかに眠り続けられるなら、私はこれからも贈り続けるだろう。
黒に染まった両手から、せめてもの愛を。