黒猫のアリア
『今夜、ビッグ・タワーの針が真上を指すころに
かの時計の心臓を頂戴しに参ります
愛を込めて──』
時計塔の歯車の音が鳴り響く部屋へ朝の清掃に来た掃除人は、ケシの花と一ペンス硬貨が添えられたメッセージカードを見つけ、叫び声を上げながら階段を駆け降りていった。
***
号外新聞が街で配られている。今夜、"黒猫"コインとモルペウスが手を組んでビッグ・タワーに忍び込む、という内容だった。
私は買い物かごをぶら下げた手と逆の手でその新聞を受け取り、軽く目を通してから盛大なため息を吐いた。
「気が重いわ……」
「まーまーそう言わないでコインちゃん。俺たちにとって始めての共同作業なんだから」
語尾のハートマークはなに。
先ほどから勝手に私の隣に付いて来ているモルペウスをじっとりとした目つきで睨む。
表の仕事の最中だと言うのに、彼は臆することなく私の元へ現れた。
「その名前で呼ばないで。時と場所を考えなさい」
睨みながら言い放つ。
人通りはそれほど多くはないが、すれ違いざまにこんな会話が聞こえてしまったら危険だ。