黒猫のアリア
カタン、ポストに一枚の封筒を落とした。
ここは私が育った孤児院。昼間は子供たちの声で溢れ返るここも、今はすっかり寝静まっている。院を軽く見渡してからもと来た道をゆっくりと歩き出した。
封筒の中身は、小切手。月に一度、私はこうしてあちこちの孤児院へお金を届けている。盗品を売った、お金だ。犯罪によって手に入れたお金を届けても、感謝されないことはわかっている。それでも私はこの行為を選んだ。
同情なんて綺麗な感情は持ち合わせていない。この心はすでに歪んでいる。だけど私は渡したかった。私から、せめてもの――
「……アン?」
窺うように呟かれた名に顔を上げる。そこには、幼い子供を腕に抱いた見覚えのあるシスターが立っていた。
「シスター……!」
「やっぱりアンなのね! まあ……! 立派になって」
シスターが感激したような顔を見せてくれる。照れくさくも嬉しかった。シスターは昔より少しだけシワの増えた手を伸ばして私の頭を優しく撫でた。
「綺麗になったのね……。見違えたわ」
照れくささから、下を向いて笑う。
「今はどんな仕事をしているの?」
シスターが問う。
「住み込みでメイドをしています」
「そう。あなたはしっかりした子だから、きっと大丈夫ね」
聖母のような微笑を浮かべるシスターに、しばし見とれる。一瞬の後、はっと意識を取り戻して話を振った。