魅せられて


身支度を整え
髪を巻き上げて
薄化粧を施し
神経質な眼鏡を掛けると


引地は見慣れない私に
軽く笑みを見せる


これが 私の正体


愛おしそうに私を眺める引地が
スマートに私を抱き寄せ
唇を重ね


「携帯電話が鳴ってたよ」


耳元で囁いた


自動精算機で
チェックアウトを済ませた引地が
ドアを開けながら
小さな溜息をつく


「響子の予定は?」


ヒールを履き
欠伸を手で隠しながら
質問の答えを考え


「そうね 少し買い物して
 自宅へ戻るわ」


「店には顔を出す?」


「今日?」


廊下を歩き
エレベーターを待つ引地は
首を傾げる私を見て


「土曜は必ず来るよ」


エレベーターに乗り込み
私は引地の顔を見上げる


「誰が?」


引地は
意味深な笑みを浮かべ


「高梨」


音もなく
エレベーターの扉が
閉まった

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