魅せられて


私は一瞬ドキリとしたわ


引地とSEXをしながら
無意識に高梨の名を
呼んでしまったのではと
戸惑ったけれど


そんなはずはない
酔っていたけれど
引地とのSEXを
一部始終覚えているもの


「…何故?」


聞き返すのが
一番 妥当な気がした


下降するエレベーターの中
軽いキスを何度も繰り返す引地は
私の唇を塞ぎながら
笑みを零す


「あの変わり者の高梨が
 女性客に興味を示したのは
 響子が 初めてだよ」


鼓動が早くなる
唇を通じて
心臓の音が引地に
伝わってしまいそうで


私は顔を背けた


「やめてよ

 まるで私が
 図々しい女みたいじゃない」


引地が伝えようとした意味は
わかっていたが
素直に返す言葉が
見当たらず


咄嗟に誤魔化してしまう


鼻で笑った引地は
私の頭を撫で
颯爽とエレベーターを降り
ロビーを通り過ぎ


一度も振り向かずに
後ろ手を振って
そのまま路上を去っていった


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