魅せられて
路上に立ち竦んでいた私は
息を吸い込み
一気に吐き出し
背筋を伸ばし
顎を少し上げ
颯爽とヒールを鳴らし
歩きだす
半乾きの髪に
風が触れると
濡れた髪が冷やされ
刺激を伝え
覚醒する脳
私は迷いが消え
高梨に逢いに行く
決断をしていた
略奪愛に溺れる為じゃない
奥様から高梨を
奪いたい訳じゃない
何よりも嬉しかったのは
引地が告げた言葉
『女性客に興味を示したのは
響子が 初めてだよ』
輝きを失い掛けた
三十過ぎの女が
輝きを取り戻した証明
奥様を一途に
愛し続ける男が
私を女性として
認めてくれるなんて
何百人の男達に
褒められるより
何千倍もの価値があるものね