魅せられて


私は一日中
何をしていたのかしらと
エステに行った滑らかな肌を
指先で撫ぜ上げ


ふと引地が耳元で
囁いた言葉を思い出した


『携帯電話が鳴ってたよ』


何度も掛かって来ない事で
仕事上の電話ではないのだろう


携帯電話を鞄から取り出し
点滅する携帯を開くと
一件のメールを受信していた


送信者名
”諸橋”


メールを開き
私は自然に笑みを零した


『まだ怒っていますか?』


何ヶ月も私に連絡を寄越さないで
諸橋は何を考えているのかしら


律儀な男


何も疑いもなく
私が怒っていると
思い込んでいるのかしら


私が告げた
”さようなら”


ドタキャンされたデートに
怒っていると見なされる私って
いったい何?


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