魅せられて


何度も顔を合わせているのに
挨拶ひとつしない男


対面するカウンター席で
目配せひとつ出来ないなんて
度胸がないのよ


視線も交わす事なく
時々 聞こえてくる
常連客達との会話が
微かに耳へ届いてくる


感情を逆撫でる声では
ないけれど


神経を研ぎ澄まして
男の声を探す私は
この時から
”魅せられて”
いたのかも知れない


そうね


男が気にいらないのは
私の存在を無視するから
なのね


惹かれ始めたのは
私の方かも
知れないわ


気に入らない男の存在は
気になる男の存在に
摩り替わっていた


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