魅せられて


”高梨”と呼ばれる男


常連客と会話をするが
殆ど言葉を出さず
聞き手に回る


質問を投げかけられても
返答の大半は
首を捻るか 頷くかの
どちらかで


喋り好きの常連客の会話を
聞いているのか
聞いていないのか
上の空の時もある


それでも”高梨さん”と
誰からも声を掛けられる男だった


酒と煙草に
焼かれた声は
微かに掠れ


耳を澄ませても
僅かばかりの声しか
聞き取れず


隣りに座る引地から


「聞いてる?」


などと言われる程
引地との会話が
途切れてしまうくらい


私は高梨に
魅せられてしまっていた


< 18 / 116 >

この作品をシェア

pagetop