魅せられて
”高梨”と呼ばれる男
常連客と会話をするが
殆ど言葉を出さず
聞き手に回る
質問を投げかけられても
返答の大半は
首を捻るか 頷くかの
どちらかで
喋り好きの常連客の会話を
聞いているのか
聞いていないのか
上の空の時もある
それでも”高梨さん”と
誰からも声を掛けられる男だった
酒と煙草に
焼かれた声は
微かに掠れ
耳を澄ませても
僅かばかりの声しか
聞き取れず
隣りに座る引地から
「聞いてる?」
などと言われる程
引地との会話が
途切れてしまうくらい
私は高梨に
魅せられてしまっていた