魅せられて


腕時計を確認する岡田は
後腐れなく席を立ち


「そろそろ失礼しますね」


バーテンダーに会計を告げ
私の飲み代まで
支払っていたわ


私は 少し萎縮してしまい
戸惑ってしまったの


「初対面の方に
 ご馳走になるなんて
 申し訳ないわ」


岡田は 優しい笑顔を残し


「気にしないでください
 楽しかったですよ」


軽い会釈をして
店を出ていった


頂いた名刺を
眺めていると
カラカラと氷を鳴らす引地が
嫌味を含めた言葉を囁く


「女は得だな」


私は 俯いたまま
微かに微笑み


「そうね」


下心の見え隠れする
男性にばかり
気を遣って媚なくても
女性として扱われた事に
悠然と嬉しくなった


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