魅せられて


私は鼓動が早まるのを
必死で隠し


「高梨さん 今 笑ったでしょ」


あえて呼んだ事のない
高梨の名前を名指しすると
無反応だった高梨が
反応を示した


「別に」


素っ気ない言葉


でも確実に高梨の視線が
私に向けられていたわ


私は やっと高梨の視界に入り
そして 息を飲んだの


決して鋭い瞳を
している訳でもないのに
重苦しい視線


情熱的に燃える瞳でもなく
精気を失った瞳でもない


瞳の奥に潜む
深い哀愁が漂い
私は一瞬で虜になっていた


何度も魅せられてきた男に
今更 一目惚れするとは
思わなかったわ


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