魅せられて


面白くない話には
結末があるのよ


私は多分
あの贈られた香水の匂いを
嗅がなければ
都合よく騙されていたでしょうね


「彼女が使っている香水を
 贈る事もあるのよ」


引地は 口角を上げ
愉快気に笑みを零す


「なるほど」


当時 二十代半ばの私は
女友達に紹介された男と
付き合い始め


ただ年上の男性から
必要以上に優しくされる事に
疑問すら持たず
流されるまま
恋愛を楽しんでいた


男と言う生き物が
何を考え
どんな行動をするかなど
疑いもせずに


男の部屋へ訪れた時
贈られた香水の匂いが
漂っていて


女性的な象徴の
艶かしい香水だけに
吐き気を覚えた事がある


「勝負もせずに
 負けちゃったわ」


屈辱的な敗北


私は
冗談めかして笑いだした


「女は鋭いな
 俺も気をつけよう」


灰皿に煙草を押し付けた引地が
わざと苦笑して見せた


< 45 / 116 >

この作品をシェア

pagetop