魅せられて


何故 突然
引地に その話をしたのかは
わからないけれど


引地の香水の匂いだけが
引き金だった訳では
ないのかも知れない


会話とは不思議なもので
縁ある話が自然と零れてしまうのね


引地の香りに導かれ
何気なく話し出した会話が
繋がっていくとは
気付かなかったわ


数日 カウンターの隅が
空席だったからかしら


目線の先に
高梨の姿はなく
僅かばかり縮まった距離が
幻のように消え去ってゆく


私自身 これと言って
態度に示していないはずなのに
引地の勘は
研ぎ澄まされているらしく
見事な程の確信を突く


「高梨は やめとけ」


あまりの衝撃に
誤魔化し切れず


「え?」


咄嗟に聞き返してしまった私は
見抜かれた心を
晒してしまっていた


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