魅せられて
学生の頃のように
『なんの事?』などと
曖昧に誤魔化す事も出来ず
見抜かれたまま
苦笑するしかないわ
高梨の存在を
気にしていないなどと
見え透いた嘘をつく気はない
「最近 見ないから
気になってたの」
正直な言葉を返すと
意外な程 引地の顔には
作り笑いすら浮かべていなかった
「そうか」
短く返された返事
その裏側には
何が潜んでいるのか
怖くなる
「何故?」
私が尋ねる事で
引地の真相が解るのならば
聞いてみたくなる
引地は言葉を濁しながら
謎掛けを告げた
「香水を贈った男と
同類って事かな」
煙草の煙りに捲かれた引地から
香水の匂いが漂い始める
私は引地の言い廻し方が
嫌いではないかも知れない
麻酔でも掛けられたように
浅く傷を開いてゆく
「あぁ そう言う事ね」
グラスの酒を
口に含めば
言葉の麻酔は浸透するものだ