魅せられて


引地の隣り席から
追い出された私を見て
皮肉めいた憎らしい顔を見せる


「あら 居たの」


些細な抵抗をしたけれど
完全に私の負けね


でも別に私は
引地の女ではないのだから
卑屈になる事はない


両側に座る常連客とも
顔馴染みだもの


右隣りの常連客は
何か誤解しているのか
一生懸命 話掛けてくる


まるで引地と女性の会話を
妨害しているような
喋り好きな常連客


テンポの早い会話に
耳を貸すのも
一苦労だけれど
上手く相手をしたわ


煙草を指先に挟み
グラスを傾ける高梨の口元が
終始 愉快気にニヤつくから
無性に腹が立つ


性格の悪い男


魅せつけないで
欲しくなる


何も話さず
私を捕らえる男なのよね


< 52 / 116 >

この作品をシェア

pagetop