魅せられて


加護なんて
いらない


耳の隅で鳴る
小さな金属音
不規則に奏でる
呼び鈴のよう


「ライターを鳴らすのは
 高梨さんの癖?」


カチンと蓋を閉じた高梨と
視線が絡みあう


返事がない代わりに
不機嫌にライターを
カウンターに置く高梨


どうやら図星のようだ


「dunhillでしょ?
 いい音よね」


両側の常連客も交え
ライターの話題になり
ZIPPOへと流れてゆく


まるで少年達が
ラジコンカーを自慢するように
メーカーの名前を競いあい


石は どうだとか
オイルが どうだとか
挙句の果てには
ZIPPOまで分解して
刻印を見せたりする


ナンバーを確認したかと思えば
ライター専門店の場所に変わり
最終的にはアメ横の話にまで
摩り替わってゆく


大きな子供みたいにね


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