魅せられて


一瞬にして
大袈裟な炎が
舞い上がったけれど


何度か手で炎を払うと
数秒も掛からず鎮火する


一瞬の出来事に
ざわめきが起き
卓席の客からも視線を浴び


焼かれた髪の匂いが
店中に漂い
醜態を晒しているような
感覚に陥った


気恥ずかしさと
惨めさが 押し寄せてくる


「大丈夫?」


隣席の客が
気を遣って声を掛けてくれるが
誤魔化して笑うしかなく
引き攣る笑顔が苦笑に変わる


誰にでもある失敗


溜息をついて
毛先の焼け焦げた後を
指先で確認しながら


異臭が消える事を
願うしかなかった


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