魅せられて


動ぜず横顔を見せて
酒を飲み続ける高梨が
ポツリと声を漏らす


「遅咲きの桜が咲いた」


マスターが高梨の言葉に
軽く頷き


「今年は咲かないかと思いましたが 
 咲きましたね」


微かに口元へ笑みを浮かべ
視線を私に送る高梨が
グラスの氷を鳴らし


「見に行く?」


私を誘ってくれたわ


私の返事を待たずに
「すぐ戻る」とマスターへ告げた高梨は
煙草を胸のポケットにしまい


私を店の外へ
誘導する


背を向けたままの
引地の後ろを通り過ぎ
高梨の後を追う


異臭を放つ場所から
私を遠ざけてくれる
高梨の優しさに


溺れてしまいそうよ


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