魅せられて


店から数分歩いた
桜並木


風に吹かれ
舞い散る花びらが
地面を覆い尽くし


殆ど散り落とした桜の木には
青葉が芽生えている


その中に
ひっそりと佇む
背丈の小さな桜の木が
夜桜として咲き乱れていた


静まり返った
桜並木


花見シーズンを終え
遅咲きの桜に群がる
人だかりもない


悠然と葉を広げる
桜とは違い
愛苦しさを備える
小さな桜の木


煙草を吸う高梨が
桜の木を眺め
振り返りもせずに


「鈍臭い女だ」


可愛らしい桜へ
報告する事は
ないじゃないの


「とりあえず…ありがとうだけは
 言わせて貰うわね」


地面に投げ捨てた
煙草を踏み潰す高梨の口角が
皮肉めいて上がっていた


< 58 / 116 >

この作品をシェア

pagetop