魅せられて


夜風は まだ薄寒く
会話もないまま
店へ戻り始めた


僅か十五分程度の散歩


不思議ね
何も話さなくても
自然でいられるなんて


緊張をしないのは
終始 背中を見せ続ける高梨が
振り向かない男だと
わかっているから


並んで歩かない
この距離間がいい


店に戻る頃には
髪を燃やした異臭も消え
右側に座っていた
お喋りな常連客が
帰った後だった


カウンター席に残された
常連客を挟んで
席に戻ると


「おかえり」


出迎えの言葉まで
頂いた


「桜 綺麗だったわ
 一緒に来れば良かったのに」


挟まれた常連客は
無邪気に笑い


「そんな野暮な事は
 しませんよ」


冗談混じりに答えたわ


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