魅せられて


結局 諸橋を悪者にして
私は耐え忍ぶ女を演じ
仮面を被っていたのよ


過去には
男に捨てられ
泣き喚きながら
縋りついた事もあるわ


電話一本寄越さずに
同僚と飲みに行っただけで
浮気していると思い込み
問い質した事もある


私の女友達と
親しげに話す男に
激怒した事だってあるもの


沢山の酷い失恋を
経験してくれば
失わない恋愛を
身に付けてくる


諸橋を愛する前に
別れない為の策略を
私は選んでいたのよ


失恋をしない為
身勝手な恋愛をしたのは
私の方なのね


何故 出逢ったばかりの男の癖に
私の内心を掻き乱すの


高梨の言葉が
胸の奥に突き刺さり


引き裂かれた心が
氷のように溶け
一筋の涙が
頬を伝って零れ落ちていた


< 65 / 116 >

この作品をシェア

pagetop