魅せられて


斜め前
空席をひとつ挟んだ
高梨の席


手を伸ばしても
触れる事のない
距離だけれど


お互いの手を伸ばせば
指先が絡み合う場所


グラスを傾け
カウンターを眺める
高梨と私


静かな時を刻む


「で?彼氏はどんな男」


沈黙を破った高梨の言葉


誰も居ない席に
高梨の妻が
幻影として現れる


だから私も
隣りの席へ
諸橋の幻影を
座らせるの


「的確な判断を狂わせる男よ」


高梨は鼻で笑い
幻影の諸橋へ
敬意を示す


「出来た男だな」


私は髪を掻き上げ
苦笑する


「出来過ぎな男で嫌になるわ」


愛すら見失う程
完璧過ぎる男だったもの


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