魅せられて


ずるい男


たった一言で
見え透いた私の思いを
遮断する


隙を与えても
くれないのね


『別居している』
奥様と高梨の隙間に
入り込む余地も
ない


私を傍に居ない
彼氏の幻影に縛り付けて
身動きを封じる


女性として
魅力がないと
言われたみたい


高梨のグラスの中
アイスピックで砕いた
氷が君臨する


瑠璃色のブランディを注ぐ
ロックグラス


カランと氷を鳴らし
グラスを揺らす高梨が
ショットグラスの酒を
飲み干すように


軽々と
ブランディを飲み干す


氷を溶かす事を
まるで拒んでいるかのようだ


それが高梨の答えにすら
思えてしまう


『どんな奥様かしら』


高梨に尋ねられない私は
男に貰った香水と同じ


勝負をせずに
負けを認め


一時の夢も
叶わないまま
失恋してしまった


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