魅せられて


男と別れた
哀しい女を演じれば
振り向いて貰えるかしら


それとも
寂しいと涙を流せば
抱き寄せて
慰めてくれるのかしら


私は悪戯に
マスターへ告げた


「”出来すぎた男”の
カクテルってある?」


微笑んだマスターは
軽く頷き
オリジナルカクテルを
作り始める


ジンベースの
蒼いカクテル


ジンがキツメの
爽やかな味


何杯も飲んだら
確実に足腰を取られ
酔い潰れてしまう


諸橋の雰囲気を
作り上げるカクテルは
一杯だけでいい


”さようなら”


惨めに
泣き崩れる女へなる為に
告げた言葉ではない


哀愁を漂わせる瞳で
何杯もブランディを飲み続ける
高梨とは違うの


私はカクテルを
飲み干し


「ご馳走様」


颯爽と席を立ったわ


女として
輝いてみたいと
決断した言葉だもの


無駄になんてしない


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