魅せられて


笑い声が飽和する
カウンター席


私の狙い通り
高梨の重い空気を
掻き乱し拭い去る


たった一人の女の為に
鬱陶しく滅入るなんて
馬鹿馬鹿しいじゃない


もっと気楽に
考えられないのかしら


和やかな雰囲気に
巻かれてしまいなさいよ


そんな私の思惑にも
背を向け続ける高梨は
頑なに心を閉ざしたまま
私達を無視し続ける


鬱々と苛立ちを
噛み締めて
敵意すら示さずに
怒りだけを剥き出しに
酒を飲み続けていた


気に入らない男


融通の利かない男


目障り過ぎて
魅せられてしまう


そんな女の事なんて
どうでもいいじゃない


私の存在を見て欲しいくなる


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