魅せられて
私は 多分
有頂天でいたのよ
引地の笑い声や
常連客の笑い声に
妖艶な女性へ変貌を遂げ
遊び慣れた女に
成りきっていたわ
私が快楽世界に
導けるなどと
馬鹿げた感情を
抱いたまま
化粧室へ席を立ち
高梨の背中越しに
声を掛けた
鬱々した状態を
嘲笑い
「暗中模索?」
顔を上げた高梨の眼が
憎しみに囚われた獣のように
殺伐とした鋭い視線で
睨み据え
妖艶なはずの私は
一瞬で 背筋が凍りついた
狂気にも似た
憎悪を纏う殺気
女性に向ける態度ではないと
誰でもわかる事
何故 その視線を
意図も簡単に向けられるの
それが高梨と言う男なのね
私は逃げるように
化粧室へ
立ち去っていたわ