魅せられて
第九章優雅


高梨に逢いたくなかった


ただ
それだけ


BARから遠退いた時間を
持て余して
しまっただけの事


何度か携帯電話を開き
諸橋の電話番号を表示させ
溜息を漏らした


掛けてしまえば
繋がってしまうかも知れない


何事もなかったように
離れた時間が清算されて
しまうかも知れない


不思議と電話に出ない
諸橋を想像しなかったわ


諸橋とは
そう言う男


律儀に対応する
余裕を持ち合わせている


新しい恋が
始まっていたとしても
平然と電話に出る男だもの


私は携帯電話を閉じ
鞄の中へ
押し込んでいた


若い娘達が読む
雑誌を鞄から取り出し
行く先を探し始め


女性一人でも
気軽に飲めそうな
カクテルBARの
特集記事を眺めながら


タクシー代を確認しようと
財布を開けた時
カードの後ろに挟まる
白い名刺が視界に映った


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