魅せられて


飲んでいる席を
外してくれたのだろう


岡田の周りから聞こえていた
防音の反響音が消え
車道を走るタイヤ音が
微かに響いてくる


『どうしました?』


突然の電話にも
暖かく迎えてくれる
岡田の落ち着いた声


「ごめんなさい
 突然 お電話を差し上げてしまって」


電話相手に
見えないとわかっていても
笑顔を作ってしまう私は
唇が微かに震えている事を
隠しながら謝罪を告げる


『大丈夫ですよ』


岡田の言葉に
私は若干 微笑み
自然と込み上げてくる
一粒の涙が
頬を伝い 零れ落ち


「逢って貰えますか?」


断られる事を
覚悟していた私は
我侭な女性のように
臆さず言葉を漏らしていた


”ご迷惑ですよね”などと
謙虚な配慮をする余裕も
なかったのかも知れない


岡田の沈黙が
断る理由を探しているようで
私は 慌てて言葉を続ける


「都合つきませんよね
 突然だもの
 気にしないでください」


早口になる私の唇を
そっと塞ぐように


『今 何処ですか?』


岡田の意外な言葉に
包み込まれてしまった


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