魅せられて


落ち着いた物腰で
硝子越しに私を見つめる
岡田の視線と絡みあう


「楽しそうには
 見えませんね」


多分 岡田は
BRAで見掛けた私と
今の私を比較しているのだろう


これが本来の私なの
男性を楽しませる器量など
持ち合わせていないのよ


隠すつもりもない
見破られて
いるのだものね


「ごめんなさい
 騙すつもりはなかったの

 岡田さんの名刺を頂ける程
 優雅な女性ではないわ」


私は財布から
岡田の名刺を取り出し
カウンターテーブルに置いた


「お返しします」


若干 面食らった岡田は
カウンターに置かれた名刺を眺め


「これは 貴方に差し上げた物ですよ」


指先で私の方へ
名刺を移動させる


私は名刺を拾い上げ
軽い溜息を零して見せた


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