魅せられて
コルクを抜いたばかりの
ワインボトルを傾け
岡田のグラスに注ぎ
「このワインが空くまで
岡田さんの時間を
私にくださる?」
ボトルを受け取った岡田が
私のグラスにワインを注ぎ
「そのつもりで
此処に来ましたよ」
ワイン一本分の
与えられた猶予
私は砂時計を返すように
少しずつ減ってゆくボトルを
眺めながら
自然と気持ちが
落ち着いてくるのを
感じていた
「馬鹿げた話をしてもいい?」
岡田はワイングラスを置き
煙草の箱を開け
「聞きましょう」
父親のような
愛情に満ちた
優しい笑顔で煙草をくわえる
「岡田さんの名刺は
私にとって
最高のチケットだったわ」
「チケット?」
「そう 平凡なOLから
魅力的な女性への
チケットだったの」
岡田は吸い込んだ煙りを
吐き出し
「とても魅力的な女性でしたね」
あのBARで振舞った
私の幻想を思い出すかのように
窓越しに映る岡田の瞳が
遠くを見つめていた