魅せられて


ボトルの残りも
僅かになり
お互いのグラスに注げば
空になってしまう


岡田のグラスへ
継ぎ足そうとボトルに
手を伸ばすと


岡田は私の手を止めた


「最後に残ったワインは
 一味 違うんですよ

 私は この最後に残された
 ワインが飲みたくて
 ワインを飲んでいると言っても
 過言ではありません」


岡田に教えられるまま
グラスを空にした私は


ふたつのグラスを並べ
柔らかくとろみさえ感じる赤い液体が
岡田の手によって
注がれるのを眺めていた


軽く乾杯したグラスに注がれた
旨味を凝縮したワインは
今まで飲んでいたワインとは
まるで違う顔を出す


熟した女性のような
複雑な大人の魅力


私はアルコールに
酔っていた訳じゃないわ
岡田の愛するワインに
酔っていたの


「チケットを使用しても
 いいかしら」


妖艶な言葉が
滑らかに零れていた


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