魅せられて


BARの扉が
重いと感じたのは
二回目


勇気を振り絞って
初めて一人で来店した時も
確か BARの扉が
とても重かった気がする


何ひとつ変わらない
店内の雰囲気
出迎えたチーフが
微笑みながら
軽く頭を下げた


背中を向けて座る
引地の横は空席のまま
私は吸い込まれるように
呼ばれてしまう


「こんばんわ」


何事もなかったように
酒を飲み続ける引地
気を遣う言葉すら
掛けずに
打ち解けていく


カウンター隅に座る
高梨


私は あんなに酷い
仕打ちをしたのに
苦い顔ひとつ見せず


私の存在を
受け止めてくれていた


これが男性と言う
生き物なのね


女々しく
過去の醜態を
拘りわりはしない


つまらない事で
いつまでも根に持つ私が
この男達と肩を並べ
酒を飲んでいられたのは


女性だったからよね


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