魅せられて


週末と言う事もあり
卓席に空席はなく
活気が溢れている


男性二名と
女性二名の客が来店し
マスターに言われる前に
引地が隣りの席に移動する


二席ずれてくれれば
私もそのまま
スライド式に移動できたけれど
グラスを持って
引地の反対側の席についた


女性連れの男性は
軽く酔った口調で
席を譲った引地へ
ニヤケた顔で礼を告げる


「すいませんね」


軽薄な態度にも動ぜず
引地は軽く頭を下げた


若いダブルカップル
勝負でも掛けているのだろう
引地の横に座る男が
女性を楽しませようと
躍起になっているのが
見て取れてしまう


まるで引地が壁のように
私と四名の客を隔てた


緻密な計算に
優待されているのは
私なのね


この小さな
男性の優しさを
私は何度
見逃してきたのだろう


席を詰めてくれればいいのになどと
深い意味など考えずに
不服だけを感じていたわ


気の利かない男と
高飛車に見下して
私は呆れた顔を
見せていたでしょうね


一番最低なのは
私だったのでしょう

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