魅せられて


席を移動した事で
カウンター隅に座る
高梨との距離も
縮まる


歩み寄らなくても
斜め前の席に座る
高梨の姿が迫り


引地から漂う
香水の匂いと
高梨の煙草の匂いに
捲かれていた


私はグラスワインを
オーダーし
岡田と過ごした時を
ワインと一緒に飲み込み


軽い溜息を吐いた


「仕事で失敗しちゃった」


引地と高梨は
聞いているのか
いないのか
無反応のまま
耳を傾けてくれている事が
初めて わかった気がした


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