魅せられて


私は愕然と
肩を落とした


「…酷い」


慰めて貰おうとは
思っていなかったけれど
親父扱いされたい訳では
なかったはずなのに


すんなり胸に溶け込んでしまう
高梨の言葉に
納得してしまう
私がいる


「婚期を逃すタイプだな
 オッサン化が進んでいる」


高梨の言葉を否定するどころか
上乗せする引地の言葉


「なんなのよ
 オッサン二人に
 言われたくないわよ」


不貞腐れて煙草を吸った私は
唇をへの字に曲げ
鼻から煙りを
吐き出していた


諸橋の為に
毎日 磨いた肌は
なんだったのかしら


綺麗にコーティングした
輝いたネールは
なんだったの


何時間も掛けて
整えた髪質も


クローゼットの中を埋める
着飾るスーツ達も


化粧台に並ぶ
高級な化粧品の数々も


私を逞しい女性にする為の
戦闘品だったと言うの


私は目尻の皺も気にせずに
大爆笑していたわ


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