魅せられて
何気なく囁く
引地の言葉
低音の声で優しく
私の全身を包み込む
「響子は響子らしく
響子でいればいい」
蕩けそうな褒め言葉
引地から奏でる
愛情に満ちた囁き
引地の肩へ
凭れ掛かってしまいそう
陳腐な会話で
女性の気を惹こうと
騒いでいたカウンター客達が
帰ったからかしら
静寂な大人の時が
密やかに流れ渡る
私はワインの魔力に
弱いのかも知れない
妖艶な女性を演出する
赤い液体
葡萄の果実
いつの間にか
席を外した高梨
微笑みながら
グラスを傾ける私を
眺めていたマスターが
優しくサポートする
「珍しいですね
酔っている響子さんを
お見受けするのは」
私は歯に噛んで
マスターに答えた
「ワイン弱いのかしら」
「アルコール度数は
あまり高くはないですが
カクテルと違い
酔いをセーブしながら
飲む感覚がないので
意外と飲まれてしまう方は
多いかも知れませんね」