嘘つきな唇
“紗綾先輩”と親しげに呼ぶこの新入社員に対して、どうにも言葉にし難い複雑な感情が湧き起上がるのを止めることができず。
そして紗綾もまた、なぜ彼がここにいるのか、戸惑いと混乱でマトモな思考回路を失っていた。
「•••拓斗(タクト)」
蒼士の前で思わず下の名前を呼んだ。
というか、それ以外で呼んだ記憶もないのだから仕方がないのかもしれないけど。
もちろん、蒼士もそれを聞き逃さない。
拓斗────安西 拓斗(アンザイ タクト)は紗綾が自分の名前を呼んだ途端に顔をほころばせた。
そしてそれは更に蒼士の心に違和感を植え付けたけれど、紗綾にそれを気づく余裕はなかった。
「よろしくお願いします、紗綾先輩」
笑顔で手を差し出した拓斗に、握手を求められているとわかって、渋々ながらも紗綾は手を出した。
重なる手に、ドクドクと無駄に響く心臓の鼓動。
「••••よろしく」
そう言うのが精一杯だった。
そして紗綾もまた、なぜ彼がここにいるのか、戸惑いと混乱でマトモな思考回路を失っていた。
「•••拓斗(タクト)」
蒼士の前で思わず下の名前を呼んだ。
というか、それ以外で呼んだ記憶もないのだから仕方がないのかもしれないけど。
もちろん、蒼士もそれを聞き逃さない。
拓斗────安西 拓斗(アンザイ タクト)は紗綾が自分の名前を呼んだ途端に顔をほころばせた。
そしてそれは更に蒼士の心に違和感を植え付けたけれど、紗綾にそれを気づく余裕はなかった。
「よろしくお願いします、紗綾先輩」
笑顔で手を差し出した拓斗に、握手を求められているとわかって、渋々ながらも紗綾は手を出した。
重なる手に、ドクドクと無駄に響く心臓の鼓動。
「••••よろしく」
そう言うのが精一杯だった。