嘘つきな唇
「仕事、大変なのか?」

結局、そのまま休憩室のテーブルで柊也と向かいあって座りコーヒーを飲むことになってしまった。

まだ昼食をすませていなかった紗綾だけれど食欲はわかなかった。


「まあ、それなりにはね」

「そうかー、やっぱ企画課は大変なんだな」

「営業のほうがもっと大変でしょ」

柊也は第一営業課に所属している。
売上成績もトップクラスだ。

「どうかなー。俺は営業が合ってるからな。そんなに苦にもならない」

にこにこと楽しそうに笑いながら柊也は応えた。

確かに、柊也は明るくて人懐っこく、勘も鋭くて頭の回転も早いから営業向きだといえる。

「あ、そういえばさ、ついさっき拓斗を見かけた」

「っ•••」

不意をつかれた。

動揺して缶コーヒーを持つ手に力がこもる。

柊也はそれに気づきながら言葉を続ける。

「あいつ、やっぱりここに決めたんだな」

「え?•••相川、知ってたの?拓斗が入社すること•••」

動揺を隠せず、瞳を揺らして柊也を見つめる。

そんな紗綾を横目でちらりと見て、フッと息を漏らした柊也は

「やっぱり・・・溜め息の原因は拓斗か」

そう確信をもった。

「!!」

柊也の言葉になにも応えることができず、紗綾はただ唇を噛みしめて俯くことしかできない。

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