嘘つきな唇
「―――……や、紗綾、紗綾?」

ハッと目をあけた紗綾を蒼士が怪訝な表情で見つめていた。

「あ、ごめん、なに?」

「……食べないのか?」

「え?――あ、ううん、食べるよ!いただきます!」

努めて明るい声を出して食事を再開させた紗綾に、蒼士も同じく「いただきます」と言って食べ始める。

紗綾の小さな変化に気づきながらも特段気にする範囲でもなく、会話はいつもの他愛ない話題に移っていった。








「うーん、この酢の物美味しい!蒼士さんが食べてるソテーも美味しそうだよね。次来たときはそっちを頼もうかな」

紗綾の瞳が潤んだような輝きを魅せる。ぷっくりと膨らんだ唇も店内の控えめな照明に妖艶に
浮かびあがる。

性欲と食欲は案外直結してるのかもな、と蒼士は思わず苦笑する。

今すぐ抱きたい欲望にかられてしまった想いを、蒼士は無理やりに押しとどめる。





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