嘘つきな唇
店を出て、二人で夜の街をゆっくりと手を繋ぎながら歩く。

サクラロードと名付けられたこの通りは、その名のとおり、桜が数百メートルに渡って植えられていて、あともう少しすればピンクの綺麗な花で溢れてくるだろう。


「紗綾。今夜はどうする?うちに来て飲み直す?」

蒼士は桜の木を仰ぎ見ながら聞く。

いつもなら、それは当たり前のデートコース。

だけど今夜は……。





「うーん、ごめん。•••今夜は、帰るわ。企画を練り直さないと」

ほんの一瞬だけ目を細めた蒼士。

「そうか。そうだな、週末に提出しろって言ったのは俺か」

ハハッと自嘲気味に渇いた笑いを吐き出して口元を歪めた。

自分で言ったこととはいえ、この中途半端に盛り上がった感情を鎮めるのに苦労しそうだなと溜め息が漏れた。


紗綾自身、デートの約束を了解した時点で、こんなふうに誘われることを想定してないわけじゃない。

寧ろ、このまま蒼士のマンションに行くことはごくごく自然のことだと思っている。

企画のことは別に、今夜じゃなくてもまだ週末までには時間がある。

練り直すと言っても、コスト面だけだ。

けれど、今夜はなぜか、蒼士のマンションに行く気になれない。










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