白雪姫と毒林檎
放課後、早速練習を始めると言い出した遠山の元に、明治と麻理子を初め数人の生徒達が集まった。

「hey,アキ。ジュンは?」
「ジュンは部活だよ」
「ぶかつ?」
「剣道やってるんだよ、け・ん・ど・う」
「知ってるわ。SAMURAIね」
「侍?あぁ、そうかもね」

笑い合う二人を遠巻きに見ていた女生徒達が、明治に声を掛けようとしてそれを阻まれた。

「邪魔しちゃダメよー」
「えっ!?誰っ!?」
「おぉっ!三井っ!」
「どーも、どーも、先生」

遠山の呼んだ名に明治は嫌そうに顔を歪め、そして麻理子は慌てて明治の後に隠れた。

「やっほー、お二人さん」
「こんにちわ、三井先輩」

にっこりと微笑む明治に「そっか、教室だもんね」と志保は笑い、その肩越しにじっと自分を見つめている麻理子に手を振った。

「ハーイ、マリーちゃん」
「・・・」
「あれれ?」

こっちも可愛くないなぁ。と思いながらも、志保は表情を崩さずに二人に歩み寄る。その途端、麻理子は「ひっ!」と小さく悲鳴を上げて明治の背に額を押し付けた。

「マリー?」
「魔女っ!」
「えっ?あっ…あぁ、なるほど」

麻理子が怯えている理由は、今朝の「魔女」宣言だった。
それがわかって安心した明治は、そっと背中に手を回して麻理子をピタリと自分に密着させた。

「大丈夫。俺がついてるよ」
「アキ、逃げましょうよ」
「大丈夫。俺が守ってあげるから」

小声で諭す明治に密着したまま、麻理子はフルフルと小さく首を振る。その様子をじっと黙って眺めていた志保だけれど、どうも納得がいかない…と明治の頬をむにっと抓んだ。

「ちょっと!」
「いたた。痛いですよ、三井先輩」
「ちゃんと否定してくれなきゃ、いつまで経っても悪者のままじゃない」

頬を膨らせる志保に、明治はニヤリと嫌な笑みを見せて両手を広げた。

「マリーには手を出させないよ」
「あらっ。結構ノリ気じゃない」
「ふふん。やるからにはちゃんとやるさ」

胸を張る明治の鼻の頭をちょんっと小突き、「でも、残念」と志保は笑う。

「アキちゃんは悪魔の役よ」
「え?そうなの?」
「そうなの。アキちゃんは悪魔、マリーちゃんがシスターよ」
「あらら」

こりゃ参った。と両手を挙げて肩を竦めた明治に、ズイッと志保が顔を近付けてニヤリと笑った。

「悪魔とシスターの禁断の恋。素敵でしょ?」
「悪趣味だな、相変わらず」

小声でやり取りをする二人に、背中に隠れていた麻理子がふと顔を上げて再び小さな悲鳴を上げた。

「きゃっ!」
「大丈夫だよ、マリー」
「Get away!」
「あららっ。マリーちゃんもやる気十分ね」

うふふっと笑った志保に、麻理子が顔を歪める。それを楽しそうに見つめる志保の額を、明治がコツンと小突いた。

「先輩、もうやめてくださいよ」
「えー。どうしよっかな」

小突かれても尚嬉しそうに笑いながら、志保はクルクルと人差し指を回す。その指をギュッと掴み、明治は表情を崩さずに後ろの麻理子でさえ聞き取れない声で言った。


「いい加減にしろよ、志保。帰ったら覚えてろ」


パッと手を離してにっこりと笑った明治に、「やるねー」と志保は更に嬉しそうだ。

「先生、明日から毎日練習見に来るからね」
「おぉ!そうか、そうか!」
「また明日ね、佐野君、マリーちゃん」

まるでスキップでもしそうなくらいに嬉しそうに去って行く志保の背中に、今度は明治が手で作ったピストルを放った。それを真似て、麻理子もバーンッと撃つ。

「魔女退治しなきゃ」

ボソリと洩らした麻理子のセリフに、明治は小さな笑い声を上げた。
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