白雪姫と毒林檎
転校生が来る!と、朝から教室はその話題で持ち切りだった。
始業ベルが鳴っても席に着かず浮足立っている生徒達の中に、少年は居た。

「アキ、どう思う?」
「ん?何が?」
「転校生だよ、てーんーこーうーせーい」
「どうって?」

色素の薄い茶色い髪に、褐色の双眸、透けるように白い肌。切れ長の目に、華奢な体。美少女のような少年、明治はゆっくりと首を傾げる。

「女だってよ」
「そうなんだ」
「何だよ。興味ねーの?」
「んー。どうかな」

不満げに覗き込む淳也が、コツンと明治の肩を拳で小突く。それに肩を竦め、明治は前方の扉を指した。

「先生来たみたいだよ?」
「ヤベ。皆っ!先生来たぞ!」

クラス委員である淳也の言葉に、生徒達は我先にと席に着いた。

「さっすがリーダー」
「うるせー」

茶化す明治を、淳也が振り返る。

「超美人だったらどうする?」
「え?あっ、うん」
「アキ?」

目を見開いて固まる明治は、幸か不幸か淳也よりも先にその姿を目にしていて。そんな明治を訝しげに見ながら淳也も前を向き、そして固まった。

「編入生紹介するぞー。座った、座った」

待ちに待った転校生の登場に、教室内は再び騒がしくなるはずだった。


「Hi,my name is Mariko Kusunoki.Nice to meet U.Please call me Mary.」


陽の光にキラキラと輝く髪、左右で色の違う瞳、陶器の如くキメ細やかで真っ白な肌に流暢な英語。明らかに自分達とは違う種類のその少女の登場に、教室内はシンと静まり返った。

けれど、ピンと背を伸ばして真っ直ぐに前を見据える少女のその姿に、明治の目は釘付けで。完全に捕えられ、視線を逸らせずにいた。

「楠は海外育ちだからな。優しくしてやれよ。ってことで、佐野の隣にするから、よろしくな」

不意に名を呼ばれ、明治は慌てて立ち上がる。けれど、何をどう反応して良いものか、瞬時に判断はつかなくて。

「こっちだよ、よろしく」

精一杯の言葉を押し出し、明治はそのまま席に着いて俯いた。
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